【ニセコイSS】春ちゃんIFルート(前編)
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ブログという形でこういうものを公開するのはどうかとも思ったんですが、まあ自分のブログだし好きにやればいいか、と思ったので公開します。
初めてSS(サイドストーリー)というものを書いてみました。
作品はニセコイです。
場面はニセコイ15巻の第134話ゴシメイです。
もし春ちゃんが楽に対して別れの言葉を告げられていたとしたら・・・。
そんなIFルートを書いてみました。
とりあえず、ここまでしか書いていませんが、続編ももしかしたら書くかも。
まあSSをブログに投稿して見る人がいるのかどうかも知りたいので、今回は挑戦ってイメージでやってみました。
拙い文章ですが、よかったら見ていってください!!
※SSが苦手な方には申し訳ありません、ブラウザバック推奨します
春ちゃんIFルート(前編)
「お疲れ様、春」
ミス凡矢理コンテストが終わり、汗だくとなった顔を校舎の外にある水飲み場で洗い流している時だった。
洗った顔を乾いたタオルで拭きながら後ろを振り向くと、そこには大親友である風ちゃんが立っていた。
「おめでとう、まさか優勝しちゃうなんてね」
「……風ちゃん」
本当にその通りだ、まさか私が優勝するなんて思わなかった。
きっと夢なんだ---と思いたいけど、顔を伝う水の冷たさが私を現実に戻させる。
私が、優勝したんだ。
「やっぱり私の言った通りでしょー? 春ってばかわいいんだから、もう少し自信持った方がいいんだよ?」
「うう……そんなこと言われても信じらんないものは信じらんないよ……」
風ちゃんはいつも私を褒めてくれる。
こんな私でも、いつもそばに居てくれる。
だからなのかもしれない、少しだけ淋しげな表情を見せたのは。
「……春、本当に頑張ったね---本当に」
「……え?」
「するの? 告白」
私が大舞台でやってのけた、大胆な発言と行動。
それは私の気持ちに素直になった表れだと受け取ったのだろう。
そして好きな人を知ってしまったら、恋人ができてしまったら、今までのように一緒にいる時間は少なくなるのかも しれない。
だからこその、淋しげな表情。
だけど、それは少しだけ間違い。
「……違うよ、風ちゃん。むしろ逆……」
「……?」
風ちゃんはそんな私の発言にきょとんとした表情をする。
それはそうだろう、好きな相手に告白しないで、そしてその逆だなんて言われたら……。
だけど、これは私の曲げることのできない信念のようなものだ。
……私、コンテストの賞品を知った時、決めたんだよ。
これで最後にするって……。
「私、もう行くね」
それだけを風ちゃんに告げる。
風ちゃんは今度は不安そうな顔を浮かべている。
いつも私のことを第一に考えて、心配してくれる。
「大丈夫だから、心配しないで」
私は決めたんだ。
もし勝てたら、今日だけは自分のわがままを許そう。
最後の思い出を先輩と作ろうって。
そのかわり……先輩とはもう会わない。
お別れを言うってそう決めた、だから---。
運動場の中心には大きく燃え上がる焚き火を囲んで、フォークダンスをしようとたくさんの生徒たちが集まっていた 。
その中にそわそわしている先輩を見つける。
そんなに私と話すのが怖いのかな? ……そうだったら、原因は私だな。
「……先輩!」
私は大好きな一条楽先輩に声をかける。
先輩は一瞬だけドキッとした仕草を見せ、こちらに振り向く。
「……踊りましょうか」
校舎の外に響き渡るように、フォークダンスの音楽は流れていく。
音楽には詳しくないのでわからないが、フォークダンスといえばこのような曲調を思い浮かべてしまう。
ぎこちない動作で先輩と私は踊り続ける。
「……本当に良かったのか? オレなんかでよ……」
突然、そんな質問を投げかけられる。
「……仕方ないでしょ? あれって女子とか選んじゃダメなんですから」
胸の高鳴りをどうにか抑えて、いつもと同じように私はしゃべり続ける。
「私、本当に男子の友達いないんですよ。でなければお姉ちゃんか風ちゃんを選んでます」
この言葉に嘘はない。男子限定でさえなければ、私は先輩を選ぶ勇気なんて湧いてこなかった。
そこだけは、実行委員に感謝かな?
「まあ、春ちゃんがいいならいいんだけどよ……」
先輩も、私のことを考えて謙虚に応えてくれる。
私が周りにどれだけかわいいと思われてるか知らないように、先輩も周りの女の子たちからどう思われるか知らない んだろうな。
こういうところも、私達は凄く似ている。
本当に、趣味も、好みも、私と似ている……。
「それに例え指名したくたって、今王子様は遠くにいるんでしょう? なら仕方ないじゃないですか」
これも嘘ではない。
先輩自信はこうして側に居てくれる。
けど、本当の意味で私の側に居てくれることはきっと……ない。
王子様の話題を出すと、先輩は困った表情をする。
そりゃそうだ、存在しない架空の人物を先輩は創り上げて私に伝えてしまったんだから。
……それも、私のせいだっけかな。
それでも、先輩は私を安心させるような言葉を紡いでくれる。
「……見てたと思うぞ。そーいや近くに来てるとかなんとか、文化祭だけ見てくとか……言ってた気がする。うん間違いない、言ってた言ってた」
先輩は私のことを思っての嘘を続ける。
本当に王子様がいたのなら、私のことなんて気にもしていないだろうに。
「だから、春ちゃんの事、ちゃんと見てたと思うぞあいつ。あのウェディングドレスにもドキッとしたんじゃねぇかな……うん」
これは先輩の本心かな、そうだといいな。
わざわざあんな恥ずかしい格好をした甲斐があるってもんだ。
「……そう……ですか。それは……嬉しいですね……」
少しだけ、いつもと違う対応をしてしまった。
正直な私なんて、私らしくもない。
だからか、先輩も少しだけ驚いた表情をしている。
そんなに素直じゃなかったですかね、今までの私は。
そんな素直じゃない私も今日で終わり。
……言わなきゃ、もう会わないって。
会わない理由も全部---、そう……決めたんだから。
「……先輩、私……!」
今までよりも強めの声色で先輩に話しかける。
先輩も何かを言いかけていたようだが、そんな私に呆気にとられている。
このまま勢いで言わないといけない。
ここでやめちゃったら、またずるずるといつもの日常に戻ってしまう。
あの楽しい日常に……。
そう、今までの日常は本当に楽しかった。
先輩とお姉ちゃんと、いろんな人と一緒に会話している中に私も混ざっていられたのは本当に楽しかった。
けど、そのままじゃいけない。
私が先輩を好きでいたままでは、私はお姉ちゃんを応援できない。
お姉ちゃんを……好きなままでいられなくなってしまうかもしれない。
だから、私は自分の気持ちを宣言する。
「私……先輩とは今日でお別れです」
突然のお別れ宣言、まだ付き合ってもないのにね。
思った通り、先輩はさっきよりも驚いた表情をしている。
私も、先輩にいきなりそんなことを言われたら、同じ表情をするのかもしれない。
「春ちゃん、一体そりゃどういうこと……」
「言葉の意味のままですよ。今日で、このフォークダンスを思い出にして先輩とはもう会わないと私が勝手に決めたんです」
「どうして?」
周りには気づかれない程度に、それでも近くで話すには大きすぎる声で、先輩は聞いてくる。
燃え盛る炎を傍目に、私たちのフォークダンスは終わりを告げ、先輩と手が離れる。
……終わっちゃったか、私の最後の思い出。
終わらせたのは私なんだけどね、名残惜しいなあ。
「それはですね、私が先輩のことを好きだからです」
このセリフだけは、面と向かって言いたかった。
せっかく向き合っているのだから、先輩の顔を見て、まっすぐに告げたかった。
だけど、私にはまだ勇気が足りなかった。
だから、下を向いたまま先輩に告白をしていた。
先輩は今どんな表情をしているんだろう? 迷惑かな、驚いてるかな、……嬉しかったりするのかな。
ずっと下を向いてるままにはいられない。
周りがこの騒ぎに気づいてしまう。
ここはフォークダンスの場。静止している私たちは邪魔になってしまう。
「ですから、さよなら」
顔を上げながら先輩とは逆に向かって、最後の言葉を告げて私は走り去った。
結局、先輩の顔は見ることができなかった。
これからも見ることはあるだろうけど、話すことはない……。
「ちょっと待ってくれよ、春ちゃん」
後ろからそんな声が聞こえてくると、先輩も私の後を追って走り始めたようだ。
……どうしよう、すぐ追いつかれちゃうよ。
この後のことを何も考えてなかった。
そこまで気を回せるほど、余裕なんて無かった。
とりあえず走り続けるしかない。
私は校舎に向かって足を動かし続けた。
先輩から逃げるために。
私なりの精一杯の速度で走った。
だけど、年上かつ男子である一条楽先輩には、運動場とは反対側の校舎の裏で簡単に追いつかれてしまった。
逃げていた私の腕を先輩が捕まえる。
「春ちゃん、ちゃんと説明してくれよ」
走ってきたせいか、先輩は息を切らしながらしゃべる。
私も全力で走っていたため、足はぶるぶると震え、地面に倒れ込むように膝を着く。
私の勇気は全て使い果たしてしまったのに、先輩はまだ目の前にいる。
顔を上げると、先輩は心配そうな、それでいて不安げな表情を浮かべている。
「……さっき言ったままの通りですよ。私は先輩のことが好きです、だからもう会いません」
「どうして、それで会わないことになるんだ?」
「……本気で分からないんですか?」
少しだけ、苛ついていた。
これは私のわがままなはずなのに、先輩が気づかないことに苛立ってしまっている自分がいた。
先輩はそんな私を見て、ただ慌てふためくだけだ。
「先輩の好きな人は誰ですか?」
だから、答えを教えるために私は聞く。
「……えっと」
先輩は恥ずかしそうな表情を浮かべ、頭を掻いている。
「ちゃんと答えてください」
私は先輩に対して語気を強めて言う。
「……小野寺……小咲だ」
名前で呼ぶのには抵抗感があるのか、少しだけ後に続いて好きな人のフルネームを私に告げる。
そう、先輩の好きな人は私の大好きな人であるお姉ちゃんなんだ。私じゃない。
「そうです、先輩が好きなのはお姉ちゃんなんです。だから必然的に、私は先輩に振られます。振られた私が先輩と友達関係になれると思いますか? 今までどおりでいられると思いますか?」
私は思いのままを先輩にぶつける。
言葉でしか伝わらないから、全てを言葉に乗せて私は紡いでいく。
「今のままでいたら私はお姉ちゃんの邪魔でしかない。それ以上に、お姉ちゃんを応援できなくなっちゃうんですよ。私はお姉ちゃんも、先輩も、大好きなんです。嫌いになんてなりたくないんです。だから、私は自分の気持ちを諦めるために、先輩とはこれ以上会わないことにしたんです。わかりましたか?」
私は先輩に対して一気に言葉をまくし立てた。
大声を出しすぎたせいで、私は息切れしていた。
これはもう、ただの怒りという感情をぶつけたに過ぎなかったかもしれない。
けど、それでいいんだ。
こうじゃなきゃ、私の気持ちは先輩に伝わらない。
先輩は優しいから、どうにかして今を守ろうとしてくれる。
それを拒むためには、感情をぶつける必要があるんだ……。
先輩は何も言えないでいた。
どう受け止めていいのかわからないのかもしれない。
だから、私が教えてあげるんだ。
「これが……会わない理由です。今日は楽しい思い出をありがとうございました。だから、もう一度言います。先輩、さよなら」
今度こそ、本当のお別れだ。
私は先輩の横を過ぎ去って、その場を離れていく。
先輩は立ち尽くしたままで、そこを動こうとはしない。
ちらっとだけ後ろを振り向くと、先輩はこちらを向き何かを言おうとしていた。
しかし、それは言葉にはならず、私を追いすがるような手は、空を切るだけとなった。
これで、よかったんだ。
運動場の方へ戻ると、フォークダンスも終わりを迎え、中心に燃え上がっていた焚き火はすっかり消え去っていた。
私は木陰のできている場所へと向かうと、そこに座り込む。
ぼーっとすでに燃え尽きてしまっている焚き木を見ていると、風ちゃんがいつの間にか隣にいた。
「春、大丈夫?」
風ちゃんを見つめると、やっぱり心配そうな顔をしている。
私は風ちゃんにこんな表情をさせちゃいけないんだ。
「どうして? 何もなかったし、大丈夫だよ」
私は嘘を吐く。もう、誰も悲しませたくない。
「……春、気づいてないのかもしれないけど、涙流れてるよ」
風ちゃんがそんなことを告げる。
「……え?」
私は自分の目元を拭う。
濡れている。
拭っても拭っても、私の眼からは涙が流れ続ける。
「おかしいな、泣くことなんて何もなかったのに。自分で決めた道のはずなのに」
もう、止められない。
一度気づいてしまったら、涙は止め処なく流れ続ける。
「……頑張ったね、春。今だけはさ、思いっきり泣こうよ」
風ちゃんが私の背中に手を回しながら、そう伝えてくる。
今だけなら、泣いていいのかな?
私は風ちゃんの胸の中に顔を埋め、思いっきり泣いた。
大声は出さずに、嗚咽しながら、涙を流した。
私の初恋は、ここで終わってしまったんだ。
だけど、大丈夫。
お姉ちゃんが私の代わりに幸せになってくれるから。
きっと、両想いの二人なら。
いつか……きっと。
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